謹賀新年。Shogi as a National Pastime!

謹賀新年。あけましておめでとうございます。
00年代の最後は、思いがけない幸福な出来事の連鎖によって、将棋に深く関わる2年間を過ごすことができました。この流れのまま、2010年代に突入したいと思っています。
今年もどうぞよろしくお願いします。
この2年間、将棋に関わり、棋士の方々との交流を通してずっと考えていたことは、将棋が日本人にとっての「National Pastime」の一つになれば・・・、ということでした。
「National Pastime」という言葉は、アメリカで野球についてよく語られる言葉ですが、その言葉の本当の意味を理解したのは、2001年9月11日の米中枢同時テロの直後でした。
テロが起きてまもなく、テレビのコマーシャルはいっさい流れなくなり、空港はすべて封鎖されて飛行機が飛ばなくなり、株式市場も閉鎖されました。メジャーリーグの試合も当然のことながらすべて中止になりました。飛行機を飛ばすことや株式市場を開くことは、経済に直結する最優先事項ゆえ早々に復活するだろうけれど、メジャーリーグはどうなのだろう。ひそやかにですが、多くの野球ファンが不安を抱いていました。球場はアメリカを象徴する場所で、しかも人がたくさん集まるゆえに格好のテロの標的になる。テロの時期は9月中旬で、もうシーズンも大詰めの時期でしたから、面倒を回避することを優先するのなら「今季の野球はここで終了」ということになっても、ぜんぜんおかしくなかった。9月12日から14日くらいまでのアメリカの雰囲気はそんなふうでした。
でもわずか一週間の空白で、メジャーリーグの球音はスタジアムに戻ってきました。各地で行われた再開のセレモニーには「National Pastime」という言葉が溢れていました。どんなに厳しい環境にあっても、それがあるから私たちは生きてゆける。4月から10月までのシーズン中は、仕事が終われば毎日見ることができ、11月から2月までのシーズンオフの間は、来シーズンのことを読み、語りながら春を待ち、3月には一足早く春になったアリゾナとフロリダでのSpring Trainingを観察しながらシーズン開幕を待つ。それが「Baseball as a National Pastime」なのだ。だからいちばん厳しい時代たる今、メジャーリーグは何よりも先に再開されねばならない。そんな関係者の情熱を、ファンが熱狂的に支持していたのが印象的でした。
この2年間、将棋界の流れとシンクロしながら暮らしてみて、気づいたら、x月y日と言われると、だいたいそのときに将棋の世界で何が行われているのかが、瞬時に頭に浮かぶようになりました。たとえば6月25日と言われれば、名人戦がちょうど終って順位戦が始まる頃で、棋聖戦の第三局くらいが行われていて、そろそろ王位戦の挑戦者が決まった頃かなあとか。11月15日と言われれば、竜王戦第三局の前後で、王将リーグが始まり、棋王戦挑戦者決定トーナメントがたけなわになっている頃かなあ、とか・・・・。それで改めて気付いたのは、将棋は本当に一年中、大きな試合が切れ目なく行われている、ということ。
将棋のタイトル戦は日本全国(ときに海外)をまわりながら、日本の四季とも深く関わりあいながら、シーズンオフもほとんどなく一年中行われています。一月から三月までじっくりと二日制の王将戦。二月、三月は主に雪の北陸での棋王戦(今年の第一局は上海)。三月初旬には「いちばん長い日・A級順位戦の最終戦」がある。そして桜の季節とともに名人戦が始まって、六月からは棋聖戦、夏の盛りの三カ月をかけて二日制の王位戦の文字通りあつい戦いが繰り広げられます。そして秋の始まりとともに王座戦が開幕し、十月から十二月にかけて竜王戦で締める。
将棋は一年を通して、見せ方の工夫さえきちんとしていけば、ほとんど毎日、「それがあるから生きてゆける」という「National Pastime」を人々に届ける存在になれる。将棋とは、日本人にとっての、そういう可能性を持ったひとつである、と強く思うようになりました。
アメリカに住んでいるので日々の将棋との接点のほとんどはネット中継の観戦ですが、日本に住んでいた頃からの夢だったタイトル戦の観戦は、いま日本に行く楽しみの一つです。
2008年は、本にも書いたように、六月の新潟(棋聖戦)、七月の豊田市(王位戦)、十月のパリ(竜王戦)に行きましたが、2009年も引き続き日本出張中の仕事の合間を縫って、

を観に行きました(5月の名人戦と11月の竜王戦は、残念ながら調整できずで行けず)。
2010年は、王将戦第一局二日目が土曜日なので、徳島県鳴門市大塚美術館での羽生久保戦の公開対局から観に行こうと思っています。
2010年代が、将棋界にとって、そして将棋ファンの皆様にとって、素晴らしい「次の10年」でありますように。