朝日杯の「対局場からのリアルタイム中継」という仕組みの効果

「ものぐさ将棋観戦ブログ」が早速、「朝日杯 木村vs佐藤和俊 ー 名局と名実況」
http://blog.livedoor.jp/shogitygoo/archives/51604365.html
というエントリーを上げて、中継担当の銀杏記者を称賛している。まったく同感。素晴らしい対局と素晴らしい実況だったと思う。
昨今のネット中継の充実を支えている「縁の下の力持ち」は、烏記者、銀杏記者をはじめ、将棋ネット中継の可能性を信じ情熱を傾けて仕事を続けるスタッフたちに拠るところが大きい。
ところでネット中継はふつう、タイトル戦も順位戦も、控室からの実況になる。控室には解説役の棋士、勉強のために訪れた棋士たちがたくさんいて、対局の検討が続けられている。中継担当スタッフは、その様子を観察したり、棋士に「取材」したりしながら、一局のありさまをリアルタイムで報じていくわけだ。あくまでも「報じる」立場。「縁の下の力持ち」と書いたのはそういう意味だ。
しかし朝日杯は、対局場に中継スタッフがパソコンを持ち込みネットにつなぎ、記録係と並んで対局を現場で眺めながら実況するシステムを取っている唯一の棋戦だ。たとえば、烏記者も銀杏記者も大変な棋力の持ち主だから、一人で対局を見ながら、誰に相談することもなく、指し手の意味を解説できる。そういう高い能力と、目の前で起きていることをリアルタイムでたくさん書いて伝えたいという熱意があわさって、素晴らしい実況が生まれたわけだ。
しかし木村佐藤戦の実況を観ていて改めて、ああこれは「棋士たちがいる控室に居ないゆえの自由」の産物なのかもしれないなあ、朝日杯の「対局場からのリアルタイム中継」という仕組みの効果がイノベーションを生んだとも言えるなあ、と思った。棋士たちへの敬意ゆえの遠慮が、「密室からリアルタイムで報じるのは自分一人だけなんだ」というこの仕組みによって解き放たれて、実況者の個が輝いたのだろう。
朝日杯の仕組みは、これからの将棋界にとっての重要な実験になっているようだ。