里見さんの女流名人位獲得に思う。ふたりっ子の世界は実現するか。

里見香奈さんが圧倒的な強さを示し、三連勝で清水さんから女流名人位を奪い、弱冠17歳にして女流二冠となった。過去にも十代の女流タイトルホルダーは何人も存在したが、どうも里見さんはそういう過去のトップ女流棋士よりもうんと強くなり、いずれは男性プロ棋士と伍していける「ファン待望の逸材」なのではないか、という認識や期待が将棋界に広がりはじめている。若手プロ棋士やアマ強豪の方々でそういう認識を語る人も多い。
まさに「ふたりっ子」のお香である。「香車のお香」こと野田香子は奨励会に入って、女性初の正式のプロ棋士になった。しかし里見さんのこれまでの言動からみて、女流棋士としての活動を休止して奨励会へ・・・という道は考えていないようである。そうか、ならば連盟も何か制度やルールを考えなければならないのかなあと思っていたら、昨日TarumiさんからTwitter上で、女流棋士のフリークラス編入試験の条件について教えていただいた。

フリークラス編入試験(Wikipediaより)


受験資格

編入試験

  • 四段の棋士5人(棋士番号の大きい順/過去2年間の奨励会卒業者の場合が多い)と対局が行われる。この対局に3勝以上すればフリークラスの四段として編入されることになる。

瀬川さんがプロ棋士になったときに導入された制度に女流棋士の記載もあるのだった。
以下、里見さんが「フリークラス編入試験」を経て女性初の正式のプロ棋士になることのリアリティについてシミュレーションしてみたい。以下の内容に誤りがあれば、ぜひコメント欄等でご指摘いただきたいと思う。
「公式戦で、プロ棋士相手に対局し、良いところ取りで10勝以上し、その間の勝率が6割5分以上」という条件がどうクリアされるかである。
まずはこれまでの里見さんの対プロ棋士の成績を見てみよう。
●糸谷、○稲葉、●金井、●糸谷、●遠山、●伊藤博、●島本、○吉田
の2勝6敗である(将棋世界誌上で○村山であるがこれは非公式戦)が、「良いところ取り」でよいということは、過去の6敗は無視して、対吉田戦の一勝から数えていけばよいということである。つまり最短ではこれから9勝5敗でいけば、当人が望めば「フリークラス編入試験」を受けることができるということになる。
いま公式戦での女流参加枠は、

である。いま調べていてわかったのだが、アマチュアよりはずいぶんチャンスが大きい。女流第一人者として女流タイトルの過半を維持すれば、名人戦王将戦以外のほぼすべての公式戦に参加できるチャンスがもう開かれている。
2010年度についていえば、朝日杯は夏の予選から参加、竜王戦は敗退(●島本)したが来期も参加、王位戦は今期は清水・石橋が参加したが来期は参加できるだろう。王座戦は敗退(●遠山)したが来期も参加、棋聖戦は今期は清水・矢内が参加したが来期は参加できるだろう。銀河戦は今期は清水・矢内が参加したが来期は参加できるだろう。直近の「○吉田」は新人王戦であり、次は順当にいけば豊島五段とあたる。棋王戦の枠は女流名人と決まっているので来期は参加できる。NHK杯戦は女流同士が予選を行って一人が出場するものだったように記憶しているので勝ちさえすれば参加できる。うち早指し戦が、朝日杯、銀河戦NHK杯戦である。瀬川さんが「フリークラス編入試験」に臨むまでの実績を出した主たる活躍の場は、早指しのテレビ棋戦である銀河戦だった。
結論としては、勝てば次々に対局がつく銀河戦で、瀬川さんのように何人抜きといった衆目認める活躍をしてどんどん白星を集めていき、朝日杯とNHK杯戦のいずれかで三勝くらいし、その他の棋戦では最低1勝はする、というくらいの組み合わせで、「フリークラス編入試験」受験資格が得られるのではないかと思う。
いま17歳の里見さんが、20歳までにはこのくらいの活躍をしてそこに到達するのではないか。奨励会に入って三段リーグを戦わなくても、女流棋士として大活躍し、その活躍に対して与えられるチャンスを十全に活かすことで、到達可能な目標と思う。
私はそんなふうに予想するのだが、皆さんは果たしてどうだろうか。

追記。「以下の内容に誤りがあれば、ぜひコメント欄等でご指摘いただきたいと思う」と記したが、http://attacco.blog.eonet.jp/default/2010/02/post-5f61.html からご指摘がありました。

ただ私は、記事に書かれているように、女流のトップにさえ立てれば
順位戦王将戦以外のすべて(トップ棋士が選抜されるものを除く)の
公式戦に参加できるチャンスがある状況であり、
当然ながらフリークラスでは順位戦が指せないわけで、
(おそらく)女流棋戦が指せなくなる代償を払ってまで
フリークラスに編入するメリットはあるのか?と思います。
あと、細かいところですが、
王位戦の女流枠は女流王位戦五番勝負出場者と決まっているので、
里見さんが来期に王位戦に出場することはありません。
また、女流王将戦のタイトル賞金額が2番目の高額になる?という話もあり、
そうなると相対的に女流名人の序列が下がる可能性があるため
棋聖戦銀河戦の出場枠もどうなるかという状況。
そして、新人王戦の女流枠は正しくは4名(26歳以下)です。