渡辺竜王防衛に思う――次は羽生渡辺百番勝負を

渡辺竜王が森内九段を四連勝で下して竜王位を防衛。六連覇を果たした。先日東京で何人かの若手棋士と話していたとき、皆一様に渡辺竜王の研究量の膨大さに舌を巻いていた。彼が人生の最優先事項に置いている竜王位の防衛には、そういう日頃の精進の成果があらわれたと言えるのだろう。心からのお祝いを気持ちを表したい。年末まで続いた去年の渡辺羽生戦の激闘の興奮を思うと、少し12月がさびしくなるけれど・・・。
さて竜王戦第一局の直後に

大胆ながら、今期竜王戦は渡辺の防衛、そして「2010年は渡辺明・本格ブレークの年になる」

と予想しておこうと思う。

と書いたが、挑戦権争いの時期が竜王戦と重なる棋王戦と王将戦の挑戦はならなかった。やはり竜王戦七番勝負の期間は、エネルギーのすべてが竜王戦に行ってしまうのだろう。これで、1月からの王将戦棋王戦、4月からの名人戦と、来年上半期の三つのタイトル戦への渡辺竜王の登場の目はなくなってしまった。
でも竜王戦も去年より一カ月早く終ったことだし、挑戦権争いの時期が竜王戦と重ならない下半期のタイトル戦(6月からの棋聖戦、7月からの王位戦、9月からの王座戦、そして10月からの竜王戦)には全部出続けるくらいの本格ブレークを見せてほしいものだと思う。しかしそういう目で、来年の各タイトル戦の挑決トーナメント表やリーグ戦のメンバーをイメージしてみると、復調著しい谷川、羽生世代の分厚さ、そしてタイトル保持者の深浦、久保をはじめとする羽生世代よりちょっと下の実力者たち、渡辺と同世代の山崎、橋本、阿久津ら、そしてさらに下の世代と戦国時代・群雄割拠の将棋界で星を取りこぼすことが許されないわけで、一つのタイトル戦に登場するのだけでもおそろしく大変なことだと改めて思う。
でも、渡辺竜王にとっては、全力で竜王位を防衛することを最優先する時期から、「竜王戦でこれだけ強いのに他の棋戦のタイトル挑戦が少ない」という状況を永世竜王として何としても打開する、そのことを最優先する時期へと移行すべきときが今なのだろう。そうなって初めて、タイトル戦での羽生渡辺戦を私たち将棋ファンがより多く見ることができる。今のままでは、対戦が百番を超えると出版される「羽生渡辺全局集」という本がいずれ出るのだろうという雰囲気がぜんぜん出てこない。中原米長、羽生佐藤、羽生森内のような同世代対決であれば、じっくり二十年かけて百番に到達ということもあり得るが、14歳の年齢差があるこの世代対決だと、若い方がある時期に爆発しないとなかなか百番に到達しない。
羽生世代が四十代に差し掛かろうとする今、その力の衰えを指摘する向きもあるが、少なくとも羽生名人だけはしばらくトッププロを張り続けるに違いないので、その間に是非、羽生渡辺百番勝負を実現してほしい。その第一歩を2010年下半期に見たいものである。