「変わりゆく現代将棋」対談準備メモの一部: 時代背景

「変わりゆく現代将棋」に収録される羽生さんとの対談のために準備したメモの一部(時代背景編)を公開します。「変わりゆく現代将棋」をより楽しむための一助になればと思います。


第一回(将棋世界97年7月号)

  • 時代背景: 谷川羽生第55期名人戦第四局。後手谷川。5手目▲7七銀、18手目△5三銀右から、▲6九玉△5五歩▲同歩△同角▲7九角△2二角▲4六角△6四銀▲5六歩 『しかし局後▲4六角は欲張りすぎだったか、と悔やんでいた。また▲5六歩は封じ手だが、ここも▲3六歩の方が良かったという。』が羽生の述懐。「変わりゆく現代将棋」連載第5回(4ヶ月後)に、▲5六歩より▲3六歩の方が良いという説明がある。
  • 時代背景: カスパロフの対コンピュータ敗戦
  • 佐藤康光自戦記冒頭『チェスの世界チャンピオン、ガリー・カスパロフ氏がIBMスーパーコンピューターディープ・ブルー」に敗れるとのニュースが入ってきた。昨年は挑戦を3勝1敗2分で退けたが今年はパワーアップしたディープ・ブルーの前に1勝2敗3分で敗れた。(中略)今回のようなニュースを聞くと我が将棋界もコンピューターがトップレベルまで登りつめるのは時間の問題という気もする。ただ私が現役でいる間は何とか阻止したいと思っている。羽生七冠王が誕生した時、森下八段は「選手として屈辱です」と語ったそうだが棋士にとってコンピューターに負ける以上の屈辱はないであろう。』

第二回(将棋世界97年8月号)

  • 時代背景: 同じ号に載っている谷川羽生第55期名人戦第六局の谷川による自戦解説(永世名人誕生) ▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩▲6六歩△8五歩からの後手谷川の急戦棒銀 『谷川 ・・・ 第6局も▲7六歩△8四歩の出だしになると予想していましたが、そこで羽生さんがどう指してくるか。▲7八金か、▲6八銀△3四歩の時に▲7七銀と矢倉を目指すか、本譜の▲6六歩。この三通りのどれかだと思いました。▲6六歩と突かれたら急戦棒銀の予定でしたが、持ち時間が9時間の名人戦で指すのは勇気がいります。しっかり咎められるのでは、という気がしますから。――最近、急戦棒銀を多用しています。谷川 振り飛車の勝率がよくなく、本格的な矢倉を指さないとすると、後手番で指す戦法がなかなかありません。ゆっくり考えなければいけないんですが(笑)。――矢倉を指さなくなった理由は。 谷川 今は特に▲3七銀戦法が全盛で、△6四角に▲4六銀から▲5八飛と回る将棋が多い。一年前くらいに一局指しましたが、それ以降はもう指さないようにしようと。あまり同じ将棋では、ファンの人にも飽きられますから。』
  • 時代背景: 同じ号に載っている谷川羽生名人戦第五局観戦記。▲7六歩△8四歩▲7八金△8五歩からの角換わり腰掛け銀。『谷川はこの3日前に行われた全日プロ決勝第5局、優勝後の会見で「先手なら3手目▲7八金がテーマでした」と現在の研究課題を述べていたが、名人戦は第2、3局に続き3手目▲7八金が現れた。本局の後手番羽生名人の出だしの異常ともいえる長考が示すように、今期シリーズは1日目の進行が遅く、現代将棋の序盤戦の難しさを考えさせられる。』
  • 時代背景: 同じ号に載っている谷川森下第15回全日本プロトーナメント決勝五番勝負第五局。▲7六歩△8四歩▲7八金△3二金▲6八銀から後手森下が先手谷川の角換わり腰掛け銀を拒否し、先手の右四間飛車に。
  • 時代背景: 同じ号に載っている西川慶二六段の矢倉の講座『今月も先月に引き続き「矢倉」について述べてみたいと思います。といっても羽生四冠の「変わりゆく現代将棋」のように最新のプロの矢倉戦についてというような難解なテーマでは勿論なく、お互いに矢倉囲いを完成することを前提に話を進めたいと思います。』

第三回(将棋世界97年9月号)

  • 時代背景: 同じ号に載っている羽生佐藤第38期王位戦第一局の佐藤による自戦解説戦型は相掛かり。「相掛かりから▲5八玉」を当時の佐藤は「誰が最初に思いついたのだろう」と嘆息し「奇襲に近い」と述べている。『羽生王位はやはり不調なのではないか。対局中、二度程私はそう考える時があった。しかし終局後、それは錯覚であり、私は自分自身の甘さを痛感させられる事となる。』『作戦はある程度は考えていた。相掛かりから▲5八玉。最近では塚田八段が連採されているがデータも少なく、未知の分野といえる。神谷六段の「奇襲虎の巻」という本にも紹介されているのでどちらかというと奇襲に近いか。しかしこれは一体誰が最初に思い付いたのだろうか。』
  • 時代背景: 同じ号に載っている河口俊彦の新・対局日誌。『近藤四段は不思議な中飛車戦法で勝ちまくっている。中飛車に振ってからの指し方は、システム化されているようでそうでなく、相手の出方によって臨機応変に対処する。先崎君が「あの中飛車でよくやりくりできるな」と感心していたから本物なのだろう。』

第四回(将棋世界97年10月号)

  • 時代背景: 本号発売直前の1997年8月26日に「横歩取り8五飛」の1号局が指された。中座真対松本佳介戦。
  • 時代背景: 同じ号に載っている羽生佐藤第38期王位戦第三局。戦型は第一局と同じ「相掛かりから▲5八玉」。『羽生王位によれば「塚田さんと佐藤さんの二人の間だけではやっている」戦法とのことだ。』
  • 時代背景: 同じ号に載っている羽生佐藤第38期王位戦第四局。戦型は相矢倉最新型。谷川が「今は特に▲3七銀戦法が全盛で、△6四角に▲4六銀から▲5八飛と回る将棋が多い。一年前くらいに一局指しましたが、それ以降はもう指さないようにしようと。あまり同じ将棋では、ファンの人にも飽きられますから。」と言ったそのものの戦型。
  • 時代背景: 同じ号に載っている羽生佐藤第56期A級順位戦(佐藤の自戦解説) 戦型は後手羽生の原始棒銀(谷川流原始棒銀)。谷川羽生第55期名人戦第六局の谷川の側を持つ。

第五回(将棋世界97年11月号)

  • 時代背景: 同じ号に載っている佐藤塚田戦の佐藤自戦解説。戦型は第一局と同じ「相掛かりから▲5八玉」の新・塚田スペシャル。前号の羽生発言『羽生王位によれば「塚田さんと佐藤さんの二人の間だけではやっている」戦法とのことだ。』を受けて、佐藤はこう言う『先月の本誌の記事によると塚田八段と私の間だけではやっている戦法との事だが、秘かにとてつもなく優秀な戦法ではないかと思っている(あくまで現時点)。皆、まだ気が付いていないのだろうが、大流行する可能性もあると思っている。』
  • 時代背景: 同じ号に載っている羽生島第45期王座戦第二局。「藤井システムの可能性」。羽生後手番藤井システムでの快勝譜。
  • 時代背景: 近藤四段のゴキゲン中飛車講座連載がスタート。

第六回(将棋世界97年12月号)

  • 時代背景: 同じ号に載っている保坂和志エッセイ。『四月にカスパロフがコンピュータに負けたことを、いまではマスコミは忘れてしまったようだけれど、将棋の世界でも「人間がコンピュータに負ける日」は確実に近づいている。』
  • 時代背景: 同じ号に載っている谷川真田第10期竜王戦第一局(オーストラリア) 戦型は矢倉戦五手目▲6六歩に対して後手谷川の△6四歩からの陽動振り飛車。『谷川は△6四歩から陽動振り飛車模様だが、これは最近の谷川のテーマといえる戦形だ。』

第七回(将棋世界98年1月号)

  • 時代背景: 同じ号に載っている藤井インタビュー『この間の王座戦で羽生王座が藤井システムを指されましたが、あれなどは最新形といえるのではないかでしょうか。途中△6三銀と上がる手などは私が考えた事がなかった手で勉強になりました。違う人が藤井システムを指すとまた違う雰囲気になるので見てみたいですし、私ももうちょっと研究してさらに可能性が広がればいいですね。』
  • 時代背景: 真部将棋論考は、人間対コンピュータ。カスパロフ対ディープブルー。

第九回(将棋世界98年3月号)

  • 時代背景: 同じ号に載っている羽生佐藤第47期王将戦第一局、第二局
  • 第一局は、後手佐藤の急戦矢倉(五手目▲6六歩型)。18手目△5三銀右から▲2六歩△8五歩▲7七銀△6四銀(佐藤新手)。観戦記は塚田八段。『第2図で羽生が次の一手を封じて、第1日目が終了した。ここまで封じ手を含めて31手。最近の2日制タイトル戦では「1日目は進まない」のが普通になってきた。これは多分、羽生がタイトル戦に出てからの傾向で、最近の将棋が特に序盤を重要視している証明でもある。』

第十回(将棋世界98年4月号)

  • 時代背景: 同じ号に載っている羽生佐藤第47期王将戦第四局のグラビア記事に『連載中の「変わりゆく現代将棋」は、プロでも難しい内容だという。少しでも進歩しようとすることが棋士の務めでもある、という羽生だが、文章の端々に楽しみながら研究し執筆している様子が窺える。序盤から惜しげもなく時間を使った本局でも、1回の連載分の数十倍の変化が捨て去られたことだろう。我々はただただ感嘆するしかない。』と記されている。

第十四回(将棋世界98年8月号)

  • 時代背景: 同じ号に載っている谷川(後手)佐藤第56期名人戦第六局は、5手目▲6六歩型、12手目△6四歩に対して13手目▲7七銀と上がり、佐藤が矢倉中飛車を誘う形になった。佐藤勝利
  • 時代背景: 佐藤康光新名人誕生

第十五回(将棋世界98年9月号)

第十七回(将棋世界98年11月号)

  • 時代背景: 同じ号に載っている谷川(後手)羽生第46期王座戦第一局は、5手目▲6六歩型、8手目△6四歩。「△6四歩は作戦だった」「新しい将棋を作りだしていきたい」(谷川竜王のコメント) 後手谷川は、8手目△6四歩、5筋を突かずに△6三銀、△4三銀と構える。(後手の形は升田の構え。1963年(昭和38年)名人戦第三局。5手目▲7七銀型で後手向飛車。) 谷川の勝利。

第十九回(将棋世界99年1月号)