将棋に流れる時間について

カリフォルニアの時間は、夏時間だと時差が日本と16時間ある。
順位戦が始まる日本の午前10時は、こちらの午後6時である。それから4時間くらい(昼食休憩後1時間経過したあたりまで)観て、寝て、たとえば朝4時に起きると日本の午後8時でちょうど将棋が佳境に入っている頃になる。そのままそれから4-5時間かけて終局まで観る、という感じで一日が始まる。
たとえば今は日本の午後10時半(こちらの午前6時半)。A級の佐藤郷田戦。午前中に急戦矢倉の佐藤新手▲5六金が出て、それからは未踏の世界での両者の長考が続き、寝て起きてきても、まだこの将棋は戦いが始まっていない。二人のトッププロが、膨大な量の読みを捨てながら手を選び、相手の手を殺しながら、将棋の形を整え続けて、早12時間近く経つのだ(しかし急戦矢倉からこんな形になるのか。不思議なものだ)。そうやってそれぞれの持ち時間6時間の大半を使い切っているから、あと30分くらいすると、両者時間に追い立てられる中、急流での激しい戦いが終局まで続くのだろう。ときにここから持将棋となり、指し直しになったりすることもある。いつぞやの佐藤木村戦などは、日本時間の朝6時半頃まで(こちら時間の午後まで)やっていた。
こういう将棋に流れる時間にただただ寄り添っていることが素晴らしい。その時間経験も含めて一局の将棋なのだ(そうやって観た将棋を、あとで棋譜を見ながら並べても、それはまったく違う経験になる)。
タイトル戦では、二日制9時間が名人戦、二日制8時間が竜王戦王将戦王位戦、一日制5時間が王座戦、一日制4時間が棋聖戦棋王戦だったかな。リーグ戦やトーナメントでは、順位戦が6時間で竜王戦が5時間。他の棋戦はもっと短い。
そして、勝負のクライマックスが午後11時から午前1時あたりにやって来る「一日制6時間という魔の持ち時間」の将棋は順位戦だけだ。そしてそろそろ佐藤郷田戦にそういう時間がやってくる(今は午後11時、こちらは朝7時)。
追記: 日本時間の午前1時少し前に、郷田勝利で将棋が終わった。本局はひょっとすると(控室の雰囲気からは)名局として高く評価されない将棋かもしれないけれど、そのプロセスはまったく違った印象を観る者の心に残している。