将棋ペンクラブ機関紙「将棋ペン倶楽部」に掲載された”受賞の言葉”、将棋世界

第21回将棋ペンクラブ大賞で、「将棋世界」に寄稿した「機会の窓を活かした若き竜王」が優秀賞をいただき、9月18日の授賞式に参加し、同機関紙「将棋ペン倶楽部」(第52号、2009年秋号)に”受賞の言葉”という原稿を書きました。本ブログへの転載を快諾していただいたので、下記に転載します。

身に訪れた奇跡


受賞作品「機会の窓を活かした若き竜王」(「将棋世界」09年3月号)を書くことができたのは、ほんのわずかな確率でしか起こらないような出来事が、立て続けに起きたからだった。そしてそれは今となっては、私の身に訪れた奇跡のようにも思える。
08年6月、私は棋聖戦第一局のウェブ観戦記を書くために新潟に出かけた。対局場で将棋を観たのも、観戦記を書いたのも、それが生まれて初めてのことだった。そしてその翌朝、東京に向かう新幹線の中で「今年の竜王戦はパリでやるんですよ」と羽生さんから突然言われる。昔からしていた「もしパリでタイトル戦があったら必ず観に行く」という羽生さんとの約束を思い出し、私はシリコンバレーに戻ってすぐ、サンフランシスコ・パリ往復のチケットを予約し、羽生挑戦ならパリに行くと決めた。
それからの羽生さんは、逆転勝ちに次ぐ逆転勝ちで渡辺さんへの挑戦を決め、「渡辺・羽生の勝った方が永世竜王」という大きな舞台を創った。そしてその第一局を、私はパリまで観に行くことになる。しかも間近で観たパリの将棋は、羽生さんの大局観の秀逸ゆえ、渡辺さんをして「将棋観が根底から覆された」と言わしめるほどの「羽生の芸術」。終局後の渡辺さんの呻きにも耳を傾けた。
ドラマはさらに続き、第21期竜王戦七番勝負は、羽生三連勝のあと渡辺三連勝で、第七局は、羽生勝てば「永世七冠」、渡辺勝てば「将棋史上初の三連敗四連勝」が懸かった、まさに百年に一度の大勝負となる。そしてその将棋が、140手すべてに緊張感が漲る将棋史に残る名局になったのだ。
こうした奇跡とも思えるような出来事の連鎖に、私自身も幸福な形で巻き込まれていた。「書きたい」とか「書くべきだ」といったことを超え「もう書くしかない」という必然に促されるようにして、この作品「機会の窓を活かした若き竜王」は完成したのだった。

授賞式の写真は「将棋世界」09年11月号(p247)に掲載されています。僕の写真のキャプションに「将棋世界から原稿を依頼されるのが夢でした(笑)」とありますが、実際、そういう内容のスピーチをいたしました。
嬉しいことにまた「将棋世界」から原稿依頼があり、次号(12月号)に、先日京都に行って観戦した王座戦第二局・羽生山崎戦の観戦エッセイが掲載されます。
どうぞお楽しみに。