金子金五郎語録(6)

升田のような将棋を内面の自己闘争のうちに解決して行こうとする方法は無限に深い道で、これは苦行にも等しい。対手の着手という現実に即応することをすくなくし、自分の頭脳の中で敵の手を造ることは、もはや「敵」でなく「自分の化身」になる。自分の化身と自分が闘うのである。元々、将棋というものはそれが本質なのだが、苦しい道であり、破綻が生じる。つまり、そればかりの方法では自然に逆らうことになる。対手にも曲り角を与えてみる――それは妥協ではなく、天に委ねる心境というものであろう。(「近代将棋」第十巻一号(昭和34年1月号))