B級2組開幕戦 ▲先崎学八段△飯塚祐紀六段

棋士たちとの個人的な付き合いが始まるまで、中堅棋士の将棋を並べるということを、あまりきちんとしたことがなかった。最近でこそ中継が充実してきたからA級以外の将棋にも簡単な解説がつくようになったけれど、それ以前はなかなか解説付きの中堅棋士棋譜と出合う機会がなかったからだ。
飯塚さんとは、去年の11月の羽生王座就位式のときが初対面で挨拶したが、会った瞬間に「この人は好きだ」と多くの人が感じるはずの、人柄のじつにいい人だった。棋聖戦第一局の副立会人が飯塚さんだと知って再会を楽しみにしていたが、二泊三日の旅であれこれと話をする機会があり、その人柄に改めて感じいった。
それで今、B級2組開幕戦の飯塚さんの将棋を、将棋盤に向かって並べてみた。
先崎八段先手での力戦型の将棋。「飯塚さん、ああ見えて(じつにいい人なのにの意)、将棋は本当にねちねちしていて嫌なんですよ・・・」と棋聖戦に同行した棋士の誰かが言っていたけれど、この将棋はねちねちしてという感じではなく、中盤に仕掛けたところから終局までの飯塚さんの流れるような攻めの切れ味が抜群に鮮やかで、大向こうを唸らせる大技(歩を取るだけの飛車切り)も出て、午後10時前に終局。先崎八段を吹っ飛ばしたという感じの将棋であった。
順位戦昇級者予想とかではとかくスター棋士の名前が出ることが多い。「指さない将棋ファン」や将棋に興味を持ったばかりの一般の人たちからすると、トップ棋士、スター棋士と、あまり話題に出ることのない中堅棋士との間に、どういう実力差があるのかがよくわからず、イメージの中では、多くの場合、その実力差を実際以上のものとして眺めてしまいがちだ。いくらテレビ解説で「・・・さんは大変な実力者です」と紹介されても、きっと有名な方の棋士が勝つんだろうな・・・といった見方をどうしてもしてしまう。でも、飯塚さんのような比較的地味な中堅棋士も含め、プロ棋士たちというのは本当に紙一重のところで戦っているものなんだ、そんなことが強く感じられる棋譜であった。