いちばん尊敬する生き方

僕は「ウェブ時代をゆく」で、高校時代以来の親友について、こう書いた。

 二十代半ばで「けものみち」を歩こうと決めたときが私の最大の転機で、これまでの人生でいちばん不安だった時期だ。
 まずは「好き」を基点にありとあらゆることを考え続けた。(中略) 高校時代以来の親友が大手金融機関を辞めて少年時代からの「好き」(歌舞伎)を貫くために松竹に入社したことに刺激されて、趣味の「将棋」に関わり続けられればと日本将棋連盟への就職もかなり真剣に考えた。(「ウェブ時代をゆく」p121)

僕はあのとき、彼と同じような決心をできなかった。
そしてさまざまな偶然が重なって日本を離れ、彼とは別種の「けものみち」を歩くことになった。
でも彼はあれから二十年以上、その道一筋に生きて、今やその世界の第一人者である。

結局私は、二〇〇八年に羽生が挑戦した四つのタイトル戦のうち、棋聖戦王位戦竜王戦の三つの対局の現場に足を運び、二つのウェブ観戦記を書くことになる(第二章、第五章)。棋士たちとのさまざまな出会いや、いくつかの勝負の帰趨に誘われて、膨大な時間を将棋の世界で費やすことになり、その結果、私の二〇〇八年は人生最高の年となった。いろいろと回り道をしたけれど、自分がいちばん好きなことが何なのかをしっかりと確認することができた。(「シリコンバレーから将棋を観る」p50-51)

僕も時間がかかったけれど、やっとね。
昨日は久しぶりに彼に長い手紙を書いた。